WEB限定小説

ミステリーヌ〜 後編 〜

どうも夜の遊園地というのはじつざいするようなのだ。あつめたしょうが、それをものがたっている。そして、その遊園地に入った人がえているというのも、本当のようだ。

「いったい、なんなんだ? どうやって、あらわれたり消えたりしているんだ? 人が消えてるって、なんでなんだろ? ふしぎだ。……もっと知りたい! このなぞをときたい!」

しょうのこともどうでもよくなり、啓吾は夜の遊園地をもとめて、ぜんりょく調ちょうをするようになった。

だんだんと、あるほうそくも見えてきた。ゆうえんがあらわれるのには、ゆうがあるようなのだ。すがたをした人たちのリストをつくり、その人たちのじょうほうをあつめているうちに、けいはそのことに気づいた。

ねんれいはばらばらだけど……だいたいの人が、なにかもんだいをかかえてる。ごとがうまくいってなかったり、学校やぞくがきらいだったり。みんな……へんをもとめてる人たちだ。そういう人たちが、遊園地にさそいこまれてるってことか」

そして、なぞのじんぶつもかかわっていることがわかってきた。

「やせていて、が高い男。かみとひげは赤い。シルクハットをかぶっていて、マントをはおっていて、マジシャンみたいに見える……。こいつが声をかけた人がえてる。きっと、この男は遊園地のかんけいしゃだ。だから……この男を見つければいいんだ!」

さがすあいが見つかったことで、啓吾はますますやる気が出てきた。

「あとひとふんばりだ! きっと見つけてみせる!」

だが、思いもよらぬてんかいっていた。

啓吾がなぞの男を見つける前に、なぞの男のほうから啓吾の前にすがたをあらわしたのだ。

それは、空がにそまったゆうれどきのことだった。家に帰ろうとしていたけいは、ぎくりとして立ちどまった。

道をふさぐようにして、の高い男が立っていた。しっこくのマントをひるがえし、頭にかぶったシルクハットがきざったらしい。とがった顔つきに、どくどくしいイチゴ色のかみとひげ。

さがしていた男だと、ひと目でわかった。ああ、うわさどおりのあやしいすがただ。

そして、「ミステリーヌ」のすいりょくかんさつりょくをもってしても、男がなにものなのかを読みとれなかった。かんじとれるのは、男がまとうたいの知れない〝こわさ〟だけだ。

じわっと、啓吾はぜんしんからあせがふきだしてくるのをかんじた。

だいじょうぶだ。おちつけ。人通りは多いし、声をあげれば、すぐにだれかが気づいて、たすけてくれる。それに、まだ明るい。わるさをするつもりなら、この男は夜のやみにまぎれて、そっと手をのばしてきたはずだ。だから、だいじょうぶ。でも……こわい!

石みたいにかたまっているけいに、男はわざとらしくおじぎをしてみせた。

「どうも。あたしのことをさがしているぼっちゃんがいると、小耳にはさんだものでやんして。そんなにおさがしなら、こちらから出むいてさしあげようと思いやしてね」

「う、あ、えっと……」

「で、ぼっちゃんはどうして、あたしのことをかぎまわっていたんでやんす? もしかして、ぼっちゃんもあたしのゆうえんに行きたいと、そうおのぞみで?」

「遊園地って、夜の? やっぱり、おじさんは夜の遊園地とかんけいがあるんですね?」

おもわずたずねた啓吾に、男はにやっとわらった。

「もちろんでやんすとも。夜の遊園地とは、すなわち『てんごくえん』のこと。そして、あたしはそこのオーナーでやんす。名前はかいどうともうしやす」

 なるほど。夜の遊園地は「天獄園」という名前なのか。そして、この男はそこのオーナーだった。

 なぞがつぎつぎあきらかになっていくことに、けいこうふんした。

 だが、まだたりない。もっと知りたいことがある。

 「お、おじさんの『てんごくえん』に行くと、帰ってこられないってうわさがあるんですけど、ほんとですか? もしそうなら、どうしてなんですか? あと、なんで夜にやっているんですか? 遊園地なら、ふつうは昼間にやるものでしょ?」

 声をふるわせながらしつもんをかさねる啓吾に、男はかんしんしたようにいった。

 「おやおや、ぼっちゃんはずいぶん知りたがり屋でやんすね。まるでたんていみたいでやんす。いや、これは……なにやら『ぜにてんどう』のはいかんじられやすねえ」

 この男は「銭天堂」のことを知っているらしいと、啓吾は目をまるくした。

 と、かいどうをかがめて、細く光る目で啓吾のことをのぞきこんできた。

 「もし本当に知りたいなら、自分の目でたしかめるのがいちばんでやんす。ぼっちゃんのことをとくべつに『天獄園』にごしょうたいしようじゃありやせんか。たくさんのおきゃくさまによろこんでいただいている、あたしのまんの遊園地でやんす。きっとぼっちゃんも気に入りやすよ。さあ、チケットをどうぞ」

 あまったるくいいながら、かいどうはマントの下から一まいのチケットをとりだした。

 きらきらとぎんいろにかがやくチケットに、けいは引力のようなきょうれつな力をかんじた。「ぜにてんどう」の「ミステリーヌ」を見たときと同じで、ほしいというちがわきあがってくる。

 くれるというなら、もらってしまおうか。ただのチケットだ。とりあえず、けとってしまえばいい。もちろん、自分一人で「てんごくえん」に行くなんて、そんなことはしない。このチケットをって帰って、あれこれしらべてみたいだけだ。

 そんなことを考えているあいだも、啓吾の手は自分でも気づかぬうちにうごいていた。チケットをつかもうと、じわじわと手がのびていく。

 だが、このとき、啓吾は怪童の顔を見てしまったのだ。

 あいかわらず怪童はにやにやとわらっていた。だが、目は笑っていない。むしろ、えたけもののように啓吾を見ている。

 自分がものとして見られていることに、やっと啓吾は気づいた。いつから? はじめからだ。怪童は、啓吾を獲物としてつかまえに来たのだ。

 そのしゅんかんけいの頭の中に、「ミステリーヌ」のちゅうきのことがぱっとうかんできた。

 ──ただし、お気をつけあそばせ。このには光を当ててはならぬくらやみもあるもの。そのままにしておくべきなぞがあることを、おわすれなく。

 ああ、あの言葉は、このことをいっていたのだ。この男こそ、そして「てんごくえん」こそ、光を当ててはならない暗闇なのだ。そのままにしておくべきなぞなのだ。

 そう気づき、

 「い、いらない! いらない! あっちに行って! ぼくに近づくな! わああああっ!」

 かいどうをおしのけ、啓吾は走りだした。人目も気にせずきわめきながら、走りに走った。怪童はってはこなかったが、啓吾はけっしてとまらなかった。一でも足をとめたら、そのしゅんかんにとらわれてしまう気がしたからだ。

 そうして、足がちぎれそうになるほど走りつづけ、ようやく自分の家の中にげこむことができたのだ。

 それからしばらくのあいだ、けいはびくびくしてすごした。毎日、ゆうれになるとおびえ、家の中のほんのわずかなくらがりにもぞっとした。

 いつかいどうがまた出てくるかもしれないと思うと、学校にも行けなかった。

 三日後、クラスメートのおさむがたずねてきた。学校を休みつづけている啓吾のために、くばられたプリントをとどけに来てくれたのだ。

 修は、やつれた啓吾におどろいたようだった。

 「ひどい顔だなあ。どうしたんだよ?」

 「ちょっと……はらをこわしたんだ」

 「ふうん。そのようすじゃ、夜のゆうえん調ちょうはすすんでなさそうだな。それとも、すこしはなにかわかったのか?」

 そうきかれ、啓吾はいろいろと話したくなった。夜の遊園地が「てんごくえん」という名前であり、そこのオーナーがかいどうというやつであること、そして、自分がどんなにおそろしいことに足をふみ入れそうになったかを。

 だが、口をひらきかけたところで、ぞわりとした。

 はいかんじたのだ。

 いる。かいどうがこののどこかにいる。すがたは見えないが、いきをころして、けいのことを見つめているのがわかる。啓吾がなにをいおうとしているかを、ちかまえているのだ。

 口からめいがあふれそうになるのをひっでこらえ、啓吾は目をふせ、小さくいった。

 「わかんなかった。なにもわからない。あのゆうえんのことは……なぞのままだよ」

 そのしゅんかんざんねんそうなしたちがして、怪童の気配がえた。

 どっと力をぬく啓吾に、なにも知らないおさむちほこった顔をした。

 「ふうん。さすがのめいたんていも、とけなかったわけだ。それじゃ、やくそくはまもってもらうからな。二とおれたちのことをばかにするなよ」

 「あ、ああ、もちろんだよ。おれ、もうなぞときはやらないから」

 「え? そうなのか? なんでだよ?」

 修はわけをききたがったが、啓吾はぴたっと口をとじ、それじょうは一言もしゃべらなかった。

 「てんごくえん」やかいどうのことを話そうとしたら、きっとまた怪童がしのびよってくる。

 そうわかっていたからだ。

づつみけい。十一さいへいせい元年の五十円玉の男の子。

〈終〉

怪童の遊園地「天獄園」が
舞台のスピンオフ!

あやし、おそろし、天獄園

あやし、おそろし、天獄園

あやし、おそろし、天獄園2

あやし、おそろし、天獄園2