取材日記

主人公さがしは、とっても大変

2015/05/29

今週の取材日記は、『中国』を担当した片野田斉さんです!13億5千人以上がくらす中国で、ひとつの家族と出会うまでのドキュメントをお送りします。

難航した主役さがし

世界のともだちシリーズの取材がスタートした2012年秋、日本と中国の関係は尖閣諸島をめぐり最悪な状態でした。9月中旬には中国各地ではげしい反日デモが1週間も続き、長年北京に住む日本人の友人も外出をひかえたほどでした。

以前にもはげしい反日デモがありましたが、一時的なもので一般の中国人にはあまり関係のないものという認識があったので、北京に住む中国人の友人に協力を依頼しました。企画意図を話すと、「将来の日中関係にとっても、とてもいい企画だ」とすぐに快諾してくれました。この友人は中国の実状を伝えて中国を助けてほしいという考えの持ち主です。十数年にわたり、ふだん入れないようなきびしい中国取材に何度も同行してくれた、とても頼りになる人です。

10才ぐらいの中流家庭にくらす女の子をさがしてくれるようにたのみました。北京近郊の農村の小学校で子どもがみつかるかもしれないという連絡をうけて、反日ムードも落ちついた10月の終わりに北京に向かいました。

近代的な高層ビル群が乱立する北京中心部からの2時間ほど車で行った農村はこれが同じ国だろうかと感じるほどに貧しいところでした。町の小学校にいくと温和そうな校長が対応してくれました。本のサンプルを見せて取材のお願いをすると町の役人に電話をかけ、なにやら話していましたが結局ことわられました。あとで友人が言うには、この貧しい村の生活を日本に見せることで、ほかの人からなんと言われるかわからないとおそれてのことでした。

その後、北京で何人かの子どもに会いましたが、「日本の本に子どもが紹介されると、うちの子の将来が心配です」といわれことわられました。

中国では「子どもは神さま」と言われています。一人っ子政策の中国では、すべてのお金はひとりの子どもの将来のために、塾や英語教育などに使われ、混んでいる電車の中では子どもがすわり親が立つ、というほど大切にされています。社会保障制度がない中国では、親にとって老後の生活をみてもらう唯一の方法は自分の子どもしかいません。受験戦争を勝ちぬき、いい会社に入り高い収入を得てほしい、その将来に少しでも傷がつくようなことはしたくないというのが理由でした。

日中関係は悪くなる一方でしたが、それはあくまでも政治的なことです。
北京には、東京の秋葉原にあるような「メイド喫茶」があり、そこで知りあった天心という子はAKB48が大好き。前田敦子の大ファンです。北京ではじめてのAKBコスプレダンスサークルを作り二十数名を集めおどりの練習に余念がありません。ネット上でかなり大勢のファンがいるそうです。

また、日本の戦国時代のファンもいるといいます。大学生を中心に日本の戦国時代のゲームがはやったのをきっかけに、「どの武将が好き?」「わたしは信長が好き」などとネットでの書きこみもおこなわれ、歴史オタクは中国語に翻訳された歴史小説に夢中です。若い人びとは日中関係などには関係なく、日本文化の面白いところをどんよくにとりいれています。

また、中流家庭の定義も貧富の差があまりにはげしいために日本のようにはいきません。13億人といわれている人びとの生活、文化など様ざまなものがダイナミックにスピーディに変革している最中なので典型的なものなどないともいわれました。

そんななか、やっと1組の親子が取材を了解してくれました。けれど、アメリカの赴任から帰ってきた家族は取材に理解がありましたが、子どもが通う北京の小学校の取材許可がおりません。子どもの生活の大半をしめる学校生活が見れないのでは意味がないのであきらめました。上海などほかの町でも知人をたよってさがしましたが、なかなかみつかりませんでした。

1年がたち、この企画に関心をしめしてくれた中国人があらわれました。彼女は編集者で「このシリーズに中国もぜひ参加するべきです」と言ってくれました。心強い味方を得て、やっとチューチンと出会うことができました。

チューチンがくらす河南省鄭州

北京西駅から高速鉄道に乗り鄭州に向かいます。高鉄は中国の新幹線で車内はとてもきれいにそうじがいきとどいていました。2時間半後、定刻通りに鄭州東駅に到着しました。駅に着いておどろいたのは駅の大きさです。まるで空港のように巨大でした。


河南省だけで1億人の人が住んでいます。この地域は中原(ちゅうげん)といわれ、古代中国文化が繁栄し3500年の歴史のあるところで、三国志の舞台にもなったところです。省都である鄭州は黄河の南岸に位置し巨大な都市でした。


チューチン、ご両親やご家族はとてもこころよくわたしを迎えてくれました。

お父さんは新進気鋭の作家として国内でも注目されている芸術家です。ふだんは家族と離れ山のなかで水墨画や書を書いています。お母さんはお父さんの作品の管理や展示などの仕事をしてます。日本で言えば上流家庭かもしれませんが、中国では中流の上くらいでしょう。中国の富裕層は雲の上のような存在です。

出会ったころのチューチンは少しはにかんでいました。おしゃべりが好きで明るくかわいい子です。どんなくらしをしているのか楽しみです。

つづく

(写真・文 片野田斉)

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片野田斉

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1960年東京生まれ。明治学院大学卒業。NHK映像取材部助手を経て、週刊誌で活躍する。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件に衝撃を受け、パキスタン、アフガニスタン、パレスチナ、イラクなどの紛争地を取材。河南省エイズ村、山西省炭鉱、四川大地震、北京オリンピックなど、中国に関するルポルタージュも多数ある。ハンセン病患者を取材した写真集や著書に、『生きるって、楽しくって』 、 『きみ江さんーハンセン病に生きて』がある。アメリカを拠点とする通信社、Polaris Imagesメンバー。

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