取材日記

サブラトとサブラトのお父さん

2016/07/15

サブラト一家はサマルカンドの真ん中で民宿を開こうと、家族が協力し合って必死になって働いていた。そんなさなかに、サブラトの通う日本語学校の岩崎先生の紹介で日本の写真家と出会い、本に出てウズベキスタンの代表として密着取材されることになった。まさかである。たぶん、世界中で写真絵本の主役になる家族なんて宝くじが当たる人より少なくて、隕石が当たる人より多いくらいだろうと思う。そんな極めて難しく面白く厄介で希有な巡り会いだ。

ふつう、いざ代表に選ばれ「よしやるぞ!」となったら、私の国はとてもすばらしい! ウチの家族の絆すごい! とにかくいいところを見て!と、よそゆきの顔になるだろう。もし我が百々家が取材対象に選ばれたらと考えるだけで相当おもしろい。しかし現実はお互いの予定や都合や思いがあり、また写真家の価値観や被写体との関係性があるから、一筋縄には行かず事件がおこる。

サブラトのお父さんはエンジニアで私と同じ年。ウズベキスタンの男たちはみんな結構な酒飲みで、男どうし近所の知り合いを訪ねては、笑顔を交わし何やらヒソヒソニコニコしている。ウズベキスタンにかぎらず、世界中昼間からカフェや路上でたむろしてチャイ(お茶)を交わしながらうだうだ話しているのはたいがい男である。女性が仕事や育児をの片手間におしゃべりを楽しんでいるのはたまに見るが、うだうだ話しをしているのは日本以外でよほど見たことがない。

ここ、ウズベキスタンでは、休みの日なら、朝からチャイではなくビールをチェイサーにウォッカを一気飲み。サブラトの撮影なのに、お父さんは私を連れだし、言葉なんか通じないけど近所の知り会いを回っては「どうもどうもこいつ、オレのニホンのトモダチ。連れて来たから今日からお前もトモダチ。乾杯!」。しかしかっこいいお父さんを私に見てもらいたかったサブラトは、昼間から酔っぱらってしまったお父さんの姿に少し悲しくなって涙する。

世界中で「勝手に日本人がこんなところに来ています! SAY! コンニチハ!」とあいさつして写真を撮らしてもらう。「おっちゃんええ顔してるなあ!」「写真撮らせて」。でもこっちを向いてる笑顔の写真は結局使わない。なぜなら、意識したいい顔を見たいのではなく、私とは違う人の存在を知りたくて写真を撮っているからだ。ものごとのハザマに見える人と風土のたたずまいと、人びとの自然な笑顔が撮れたらと思っている。

旅人を迎える度量や余裕のある人たちとは、言葉を超えて「あなたに会えて良かった!」と通じることができるものだ。だからウズベキスタン語しか話せないお父さんとも、何とも不思議な親近感をもちながら路地を一緒に歩けた。

(写真・文 百々新)

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笑顔でなんども乾杯するお父さんもじっくり楽しめます!

 

百々新

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どど あらた 1974年、大阪府生まれ。奈良県広陵町育ち。1995年写真展「上海新世紀計画」開催。同展でコニカ新しい写真家登場グランプリ受賞。1997年、大阪芸術大学写真学科卒業。写真集『上海の流儀』(Mole出版)で、2000年日本写真協会新人賞受賞。2004年、NY ADC 審査員特別賞、2009年APA広告賞特選賞。2012年、写真集『対岸』(赤々舎)で、第38回木村伊兵衛写真賞受賞。

http://dodoarata.web.fc2.com

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