取材日記

ジャンパオロの家族

2016/04/06

ジャンパオロの家族は4人家族。お父さんのアントニオ、お母さんのマリーナ、妹のプリシッラ、そしてジャンパオロ。私が一番感謝していることは、常に普通の生活を撮らせてもらえたこと。ふだん通りの生活ってなかなか他人には恥ずかしくて見せられないのに、私には夫婦げんかも兄妹げんかも見せてくれて、いつも通り笑って、時には泣いて、大声を上げたり、いうことを聞かない子どもをきちんと叱ったり、きつく抱きしめて愛情を注いだり、とにかく自然な姿の家族を撮影できたのです。だから私は常に現場で透明人間になれたのです。それはもしかしたらイタリア語ができないことが功を奏しているのかもしれないとも思いましたが(笑)。

とくかく家族が一番大事なイタリアでは、口うるさいと思うほどいろいろなことに干渉します。その一見口うるさい干渉がなぜか愛情に変わってくるから不思議な国です。

ジャンパオロの一日は「お父さんの布団ひっぺ返し」で起こされることから始まり、次に妹プリシッラとの枕ぶつけ合い、そして登校時間ぎりぎりでお母さんに怒られながらお父さんの車に乗り込み、学校へむかいます。

学校から帰ってくると、お昼ご飯です。ジャンパオロの学校では、給食はなく、13時まで勉強したら帰宅して家族で昼ご飯を食べます。昼ご飯はたっぷり食べて、夜ご飯は軽く、大人ならワインとチーズ、子どもならホットミルクとビスケットなどですませます(はじめ、私はこの習慣にびっくりしたのですが、やってみると朝おきたときの体の調子がとってもいい!)。とにかくサルデーニャ人はおいしいものが大好き。ジャンパオロの好きなものはパスタとオリーブオイル。ランチはきちんと前菜、パスタ、メイン、デザートとまるでレストランのコース料理のように食べます。

この食事のときが、家族がコミュニケーションをとる大事な時間。会話が始まると、学校でのできごとや、その日習ったこと、先生のことや友達のこと。とにかくいろいろなことを話します。アントニオとマリーナも、仕事のことや今度の週末のことなど。何気ない会話からその日の子どもの状態がよくわかるから、やはり会話は大事。そして会話を愛情表現として重要視していることもわかりました。

食事に飽きるとジャンパオロはすぐさま外に飛び出し、大好きなバギーを乗り回したり(ものすごいスピードで)、木登りしたり、一時も休まりません。習いごともしています。音楽教室でドラム、サッカー練習、ダンス教室。私が「こんなに習いごとをしていたらジャンパオロも忙しいですね。」とマリーナにきくと、「子どもがやりたいと思うことは何でもやらせてあげたいの。子どもっていろいろな可能を秘めているから何に反応するか発見するのも楽しいの。」と愛情たっぷりのお母さんらしい答えが返ってきました。

マリーナのいう通りだ……!とジャンパオロの音楽教室を見て思いました。楽譜の勉強は大嫌い。一方、ドラムの演奏は大好きで、大人みたいに上手。でも、将来何になりたいの? と聞くと、軍隊に入りたいという。妹のプリシッラは、動物が大好き。将来は獣医さんになりたいのかな、と思いきや、実は洋服やアクセサリーなどのファションも好き。子どもたちはまったくもって無限の可能性を秘めていました。

撮影が終盤にさしかかり、そろそろジャンパオロが私の撮影にも飽きてきたころ。路上でスポーツカーを見つけたジャンパオロは、目をクリクリさせながら「ノリコ、見てみて!かっこいい!」とその車をずっとながめていました。私は彼がバギーを運転するときのものすごいスピードを思い出し、やはり軍隊でもドラマーでもなく、将来はF1レーサーだなあ。と確信したのです。そう、イタリアだし……(笑)。

(写真・文 山口規子)

世界のともだち㉛『イタリア パスタの島のジャンパオロ』の詳細はこちらをどうぞ!
兄妹げんか真っ最中! の写真もあって、ほほえましいです。

山口規子

関連記事一覧

栃木県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。文藝春秋写真部を経て独立。女性誌や旅雑誌を中心に活動中。「イスタンブールの男」で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、「路上の芸人たち」で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。著書に『メイキング・オブ・ザ・ペニンシュラ東京』、『Real-G 1/1scale GUNDAM Photographs』、『奇跡のリゾート、星のや 竹富島』(共著)など。料理やくらしに関する撮影書籍は多数。旅好き、猫好き。

  • チェック