取材日記

イタリアの小学校にびっくり!

2016/01/12

今日の取材日記は、『イタリア』です。サルデーニャ島のジャンパオロを撮影した山口規子さん。日本とイタリアの小学校のしくみの違いにおどろいたそう。さて、どんなものだったのでしょう?

担当編集者のAさんから、イタリアの子どもを取材撮影してくださいと聞いたとき、すぐさま思いついた場所はサルデーニャ島でした。1985年に出版された前のシリーズ、「世界の子どもだち」の主人公はフィレンツェの子どもだったので、できれば今回はフィレンツェ以外を、という要望にもぴったりでしたが、イタリアのなかでも独自の文化が色濃くのこるサルデーニャ。はたして、この独特な場所を編集部がのんでくれるかということが心配でした。編集者につたえると、「サルデーニャ島! おもしろいですね。見てみたいです!」と意外にもあっさり。こうして、サルデーニャにむかうことになったのです。

サルデーニャ島は、地中海にうかぶ、イタリアではシチリア島のつぎに大きな島です。昔から異国の船が立ちよるたびに残していったさまざまな文化を、彼らなりに咀嚼し、独自の文化を作り上げてきました。人々は自分たちのことをイタリア人といわずサルデーニャ人といい、自分たちの料理のことはサルデーニャ料理とよびます。

100歳以上の老人が多く住む長寿の島としても有名です。この島に初めて訪れたのは2009年。雑誌の取材で「長寿の島・100歳の道」を探るべく、訪れました。イタリア本土にあるミラノやフィレンツェ、ローマなどの主要都市のイメージとは違い、のんびりとした時間が流れる素敵な田舎。人々の生活はとてもシンプルで、そこで作ったもの、採れたもので生活している。きちんと自分たちの自然環境を受け入れてくらしている姿を、私は力強く頼もしいと感じました。

その取材中に泊まったのがホテル「ラ・サモラ」、今回の主人公、ジャンパオロのお父さんが経営するホテルだったのです。

ジャンパオロの撮影は、彼の通うボナルカド小学校からはじまりました。私もイタリアの小学校に入るのは、はじめて。校舎に入る大きな入口にはきちんと鍵がかかっていました。失礼ですが、こんな田舎の小学校でもセキュリティーがしっかりしているのだなあ、と感心しきり。中に入れてもらうと、そこにいたのは、授業コーディネーターのマリアさん。
「ボンジョルノ! あなたがジャンパオロを撮影するフォトグラファーね。ようこそいらっしゃいました!」
とりあえず、と思い、「ジャンパオロのクラスの担任の先生にお会いしたいのですが……」とたずねると、担任の先生はいないという。え! 担任の先生がいない!? おどろく私に、マリアさんが1からイタリアの小学校のシステムを教えてくれました。

まず、ひとつひとつのクラスを担当する担任教師というシステムはなく、各科目を担当する教師たちと授業コーディネーター、そして学校用務員さんで形成されていること。たとえば、ジャンパオロのクラスは国語、歴史はマリア先生(授業コーディネーターのマリアさんとは別人。余談ですが、イタリアにはマリアという名前の女性が多く、私はとても混乱しました)、数学と体育はジョバンナ先生、宗教はセバスチャン先生というように科目ごとに先生がいます。校長のジョゼッペ先生は、3地区(セネゲ、ボナルカド、サントルスルジュ)の3学校を統括してみているそうです。

つぎにマリアさんがつれていってくれたのは、教科書がたくさん置かれている部屋。「ここで教師が1年ごとに教科書を選ぶのよ。例えば4年生の算数を教えていた先生が、次の年の5年生用の算数の教科書を選ぶの」なるほど、教室で直接教えている先生が教科書を選ぶシステムは責任重大な部分も多いけれど、学習の進歩を見ながら選べるから、学ぶ子どもたちにとってはよいやり方です。

また、職員室というものもなく、少しすわって休憩できるラウンジのようなものがあるだけ。先生は、個人的なバックからPC、教材まで、全部を教室に持ちこみます。否が応でも、子どもたちと向き合う時間が多くなります。さらにおどろいたことは、授業の間に休憩時間がないこと。おやつ休憩の10時~10時15分以外は、始業時間の8時30分から、終業時間の13時30分までぶっ通しで勉強します。

日本の小学校と違うことばかりでおどろきの中、撮影がはじまりました。ジャンパオロのクラスは、男の子4人と女の子7人の11人。日本人にはじめて会った子どもたちがほとんどで、日本のことをたずねてみると、「ポケモン!」「ドラえもん!」と元気な声が返ってきました。そして「サムライはいるの? ニンジャは?」と質問ぜめ。すると先生が「今日は遠い日本からノリコがやってきてくれましたから、今日はノリコについて表現しましょう」。いきなり「表現」の授業になりました。私の身なりや第一印象を文章で表現するというものでした。「ノリコは日本人、重そうなカメラを持っています。ジーンズをはいていて男の子みたいです」など出るわ出るわ本当の私!(笑)。

ジャンパオロはにぎやかなクラスの中でもいちばん元気でした。親友のマティアと大の仲良しで、授業中もつるんでいます。撮影していると、この子はこの子が好きで、この子は数学が嫌いなのだなあ、この子はおとなしくてあまり発言していないなあ、などと、ファインダーを通して見えてくるものがたくさんあります。

どんな子にも未来という大海原が待ち受けていて、自分の力で船を漕ぎ出す準備をしているのだなあと強く感じました。そして、こんなにぎやかで楽しい子どもたちを撮影できることをうれしくも思い、明日も明後日もずっと撮影に通う決心をしたのでした。

(写真・文 山口規子)

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山口規子

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栃木県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。文藝春秋写真部を経て独立。女性誌や旅雑誌を中心に活動中。「イスタンブールの男」で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、「路上の芸人たち」で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。著書に『メイキング・オブ・ザ・ペニンシュラ東京』、『Real-G 1/1scale GUNDAM Photographs』、『奇跡のリゾート、星のや 竹富島』(共著)など。料理やくらしに関する撮影書籍は多数。旅好き、猫好き。

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