取材日記

バリ島のくらし

2015/09/25

石川梵さんによる『インドネシア』の取材日記、2回目です!(1回目はこちらです)今回も、マン・アユのくらす伝統的な家屋のことや、学校でのお祭りのことなど、もりだくさんでお届けします!

私がバリ島を訪れるのは、もう30回をこえています。バリ島の撮影だけではなく、インドネシアのほかの島々の取材へもバリを中継地点にして行くことが多いので、自然と回数がふえてしまいました。そんな私でも、今回の取材では、これまで見えてこなかった普通のバリ人の暮らしをくわしく知ることができました。

家の造りとバリのくらし

マン・アユはバリ・ヒンズー教では、スードラ(平民)というカーストに属し、お母さんいわく貧しい家庭だとのこと。でも、7つのたてものとお寺があり、祠にかこまれた中庭には木々が生い茂る、日本人からみればうらやましいとしか思えない、広い敷地の家にくらしています。でも、これは特別なことではなく、バリの人々の先祖代々の伝統家屋というのは、こういうものらしいのです。

また、その造りは興味がつきません。
せまい入口の門をくぐると、すぐに通せんぼをするかのように立っている衝立のようなもの。これはいったい何のためにあるのか。バリの家や古いロスメン(民宿)を訪れるたびに不思議に思っていましたが、今回の取材で、これはアリン・アリンというもので、悪霊が入ってこないように造られていることを知りました。マン・アユの家については、本にもくわしい図解と写真、そして説明が収められているのでぜひ見てほしいです。

ほかにも、バリの新しい発見がたくさんありました。子ども向けの本ではありますが、バリのことをもっと知りたい人にも参考になると思います。そう、バリの普通の人々の暮らしをマン・アユがガイドになって案内してくれる、そんな読み方もできます。

マン・アユの毎日

朝、起きて、チャナン(お供え物)を家のあらゆるところにお供えして、学校へ行くマン・アユ。学校での生活もバリらしく、お祈りから始まります。学校生活の取材は、2週間ほどと短かったものの、生徒が総出でおこなうお祭りや、遠足、運動会とイベントはもりだくさんでした。

特に印象的だったのは、学問の神様である、サラスヴァティーのお祭り。マン・アユをはじめとした踊り子チームがバリ舞踊を披露する中、伝統衣装に身をつつんだこどもたちが手を合わせて祈るというもので、なんともほほえましく、バリ人の神様への敬虔な気持ちが伝わってくる催しでした。

マン・アユは、毎週2回バリ舞踊の舞台にたっています。圧巻なのは、10才のマン・アユが、お母さんに手伝ってもらって、化粧をし、衣装を羽織って踊り子へと変身していく様子。写真を見てもらえればわかると思いますが、準備が終わり、舞台に立ったマン・アユは、学校や家庭で見る幼いマン・アユとは完全に別人で、まるで彼女に何かがのりうつったかのようでした。

この本には、ひとりの小学生、マン・アユとその家族の、かけがえのない幸せな時間が写っています。でもそれだけではなく、バリ人がとても大切にしている「心」も捉えられたのではないかとも思うのです。それはひょっとしたら今の日本の子どもたちの間でうしなわれてしまったものかもしれません。ぜひ、親子で手にとって読んでみてほしい。そこには異国でありながら、なぜか懐かしい大切なものがあるはずです。

(写真・文 石川梵)

世界のともだち㉕『インドネシア バリの踊り子 マン・アユ』、
くわしくはこちらをごらんください!
マン・アユの家の見取り図のイラストにも、要注目です!

石川 梵

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1960年大分県生まれ。フランスAFP通信社を経て独立。「祈り」をテーマに世界各地で撮影を続け、日本や海外のメディアでフォトストーリーを発表しつづけている。写真集に『The Days After 東日本大震災の記憶』(飛鳥新社/日本写真協会作家賞)、『海人』(新潮社/講談社出版文化賞写真賞、日本写真協会新人賞)など、フォトエッセイに『鯨人』『伊勢神宮 式年遷宮と祈り』(ともに集英社新書)、『祈りの大地』(岩波書店)などがある。

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