取材日記

撮影先を決めずにトルコへ!

2015/06/17

きょうの取材日記は林典子さんの登場です。本に掲載していない、取材の舞台裏写真とともに主人公エブラールとの出会いを紹介します!それにしても、世界遺産のサフランボル旧市街、とても美しいです……。

 

「世界のともだち」シリーズの撮影のためにトルコを訪れたのは2013年の年末でした。以前、観光で訪れたことのあるトルコをすっかり気に入ってしまい、今回トルコを担当することになったものの、どの子どもをどの場所で撮影するかも分からないままトルコへ向かいました。

それまでは仕事で毎日があわただしく、とてもゆったりとした時間を過ごすことができなかったので、「今回の撮影は仕事としてではなく、休暇をもらった旅行者の気持ちでゆっくり気ままにトルコを旅して、そこで気に入った街があったら、主人公になってくれる子どもをさがそう!」と決めていました。イスタンブールは日本人にはあまりになじみがありすぎるので、できれば首都から離れた場所で撮影をしたいなと思っていました。そして、カッパドキアやトルコ東部の農村地、エーゲ海の近くにくらす子どもたち……などいろいろな出会いを想像して旅をはじめました。その旅の途中で訪れたのが、サフランボルでした。

この街は世界遺産に指定されているにも関わらず、日本からの観光客は多くはなく、個人旅行か団体旅行者で訪れる人たちがバスで数時間だけ滞在するだけ。むかしからかわらず残っている家屋や市場、ハマム(公共のお風呂)などおとぎ話のような光景が広がるこの街をすっかり気に入ってしまいました。

滞在2日目に、たまたま近くにいたタクシーに乗り、車で20分ほど走ったところにある小さな村を訪ねました。そのときに、運転手のおじさんが「ぼくの友達は日本語が話せるんだ」と言い、わたしの目の前でその友人に電話をしました。その電話の相手がサフランボルのツーリスト・インフォメーションで働くヤコブ・バステンさんでした。

タクシーで街にもどってくるなり、すぐにヤコブさんが働く小さなオフィスへ向かいました。なぜトルコに来たの? ひとりで旅行をしているの? いろいろと質問をされたので、「世界のともだち」の本のことをお話しすると、「だったらぜひサフランボルで取材をしたらいい!」と言ってくれました。このときまでにはわたしもぜひサフランボルで取材をしたい!!と思っていたので、翌日ヤコブさんといっしょに街の学校へ向かいました。校長先生に本の説明をしているときにたまたま部屋に入ってきたのがエブラール。「彼女もその本に登場する子どもたちと同じ年代だよ」と言われ、そのときになにげなく1枚だけ撮影したのがこの写真です。

まだ慣れていないせいもあってか、写真に写ったエブラールは少しはにかんだ笑顔でした。

すぐに学校の先生を通してエブラールのお父さんに連絡をしてもらいました。しかし、敬けんなイスラム教徒の一家の娘であるエブラールの家族には 「娘を他人の目にさらすようなことはしたくない」とことわられてしまいました。翌日、今度はヤコブさんのオフィスで直接エブラールのお母さんケズバンさんとエブラールに会って取材のお願いをしたところ、「エブラールと同じような年齢の日本の子どもたちにトルコのことを知ってもらうきっかけになるのなら、ぜひ」と撮影をさせてもらえることになりました。

数日後、撮影のためにはじめてエブラールの家を訪ねると、エブラールはわたしのために手作りのビーズのブレスレットを作って待っていてくれました。その日からエブラールのベッドの向かいのソファで寝ながら彼女の一日を追う日々がはじまりました。2013年12月当時、すでに発売されていた「世界のともだち」シリーズのひとつめの長倉洋海さんの『ルーマニア』の本をエブラールの家族に見せると、自分が本に登場することについて実感がわいたのか、近所の人たちや親せきたちに本を見せながら「トルコ版はエブラールが主人公になるの!」と本当にうれしそうに話していました。

エブラールの家にやってきて3日後は12月31日。わたしはだれにあげるかもわからないまま日本から持ってきた子ども用のゆかたをエブラールにプレゼントすると、彼女はゆかたに合わせて髪の毛をアップにして、その夜はずっとゆかたを着たまま寝るまでぬぎませんでした。ゆかたを着ている写真は本には載せられないと思ったのですが、ゆかたを着ているエブラールがかわいいので、その日は写真を撮るのをやめてわたしも彼女といっしょに遊ぶことにしました。

最初は写真を撮られるたびに、反応していたエブラールもエブラールの家族もしだいに慣れてきたのか、写真を撮られることをまったく気にしなくなりました。

エブラールの家に滞在しているときに、地元のテレビ局から逆に取材を受けることもありました。 結局1回目の取材では3週間サフランボルに滞在しました。写真を撮影していたのは数日間でしたが、この期間地元の人たちとの交流も多くあり、エブラールともすっかりうちとけ、本当に楽しい時間を過ごすことができました。

つづく

(写真・文 林典子)

サフランボルでくらす人びとの日常生活が見えてくる
世界のともだち24『トルコ エブラールの楽しいペンション』 の詳細はこちらです!

林 典子

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1983年生まれ。大学在学中に、西アフリカ・ガンビアの新聞社で写真を撮りはじめる。「ニュースにならない人びとの物語」を国内外で取材。ワシントン・ポスト紙、デア・シュピーゲル紙、米ニューズウィーク、ナショナル ジオグラフィック日本版などの数かずのメディアで作品を発表。2013年フランス世界報道写真祭 Visa pour l’Image金賞、14年NPPA全米報道写真家協会賞1位など受賞。著書や写真集に、『フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳』(岩波書店)、『キルギスの誘拐結婚』(日経ナショナル ジオグラフィック社)がある。

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