取材日記

カリオカっ子の目

2015/05/12

前回の取材日記で、ミゲルと再会した永武ひかるさん。リオデジャネイロをおとずれたのは、リオの子どもたちが撮った写真の展覧会をするためでもありました。永武さんが主催する、世界の子どもたちが写真を撮るプロジェクト、ワンダーアイズプロジェクトが現地の団体といっしょに開催した、この写真展のようすをお届けします!

リオでミゲルと久しぶりに再会。待ち合わせをしたのは、共和国ミュージアム・ガーデン。リオがかつて首都だった時の大統領官邸が博物館となり、その広い庭園が入場無料で毎日オープンしている。亜熱帯の樹木がオアシスを作り、たくさんの人が訪れるいこいの場だ。実は、ミゲルたち、このガーデンで開かれている写真展を見に来てくれたのだ。リオ市ができてから450周年の記念イベントのひとつとして、リオのFIRJANという団体と、わたしが手がけているワンダーアイズプロジェクトが協力して開いたものだ。リオの子どもたちが写した作品が大きく飾られている。リオでメディア取材を受けたわたしの姿がテレビのニュースなどに出ていたのをミゲルたち家族も見てくれたのだった。

「親指をたててオッケーのポーズをする男の子」、「世界最大級のサッカースタジアム・マラカン球場」……。写真は12のスラム地区の子どもたち約200人が写した中からのセレクションだ。「展示されて嬉しい!」。喜びの声をあげたのはフェルナンダ。亡くなったおじいさんを偲んで、家の壁に大きく刻まれたポートレートを写した作品だ。

2年前に彼らと写真ワークショップを行ない、わたしもスラムをかけめぐった。「オィ!(Oi!)」と街で出会う人に気軽に声をかけてシャッターを押すカリオカっこたち。レンズを向けられた大人たちも、おおらかにポーズを取って応える。そんな一枚、ラヤーニが写した、電柱で作業する人の写真もガーデンを飾った。

人口約700万、大都会のリオは格差の大きい社会。スラムの数は何百あるとも、そこに暮らす人々はリオの人口の5分の1をしめるともいわれている。ビルやマンションの間に、小さな箱を積み重ねたようにレンガの家が並ぶ。スラムはどんどん増え、郊外にも広がり、治安はかねてからの課題だ。そこに暮らす子どもたちは、ミゲルたち、ミドルクラスの子どもたちとは、まったくちがう環境に置かれている。学校もそこそこにギャングの仲間入りをしてしまう子もいるらしい。それでも、2年ぶりに会ってみると、嬉しい成長もあった。「写真でいろんなことを学べたよ。新しい場所も発見できた」とテレビの取材を堂々と受けていたファブリシオ。「スラムは住むようなところじゃない、って言われるけれど、写真のプロジェクトで、ちがった良さがあることに気づいた」と笑顔で答えた中学生のカッシア。体が大きくなっただけでなく、社会や自分たちのコミュニティについて考えて意見を言う。その姿がまぶしかった。

リオに滞在中の3月、子どもたちとまたあらたな写真のワークショップを行なった。ひとつはスラムのコミュニティ。簡単なオリエンテーションをしてから撮影会をする。丘の斜面を埋める家と、その間に続く路地はまるで迷路のよう。走る子どもたちを追いかけて、わたしもファインダーをのぞく。カメラを手に声をあげながら写真を写す子どもたち。色とりどりの壁が現われると、みんなはすかさずカシャ! シャッターを押す素早さは、ときにプロ顔負けだ。世界中から訪れたアーティストが描いたグラフィティが街を飾る。これもコミュニティのプロジェクトだそうだ。

ミドルクラスの子どもたちが通う私立の学校でもワークショップをした。小学生たちがマンゴーの木やトロピカルな真っ赤な花を写したり、高い梢を動きまわるマーモセット(モンキー)を写したり(あまりにすばやくて、なかなかうまくいかなかったけれど)。この学校は来年オリンピックが開かれるエリアにあることから、次のオリンピックの開催都市、東京の小学生と写真を交換する写真交流も行なった。中には自分撮りをしてポストカードにした子も。日本からの写真を手にしてポーズ!の記念写真では、先生も「イェーイ!」と大声をあげた。カリオカの明るいエネルギーにつられて、わたしも 「いぇーい」とつぶやきながらシャッターを押した。

(写真・文 永武ひかる)

◎この写真展、“Conexões de Olhares” (Connections of Eyes)の動画がこちらにアップされています。あわせてどうぞ!

◎リオで行われたこの写真展、かたちをかえて5月に日本にもやってきます!◎
「ワンダー・リオ~ブラジル」写真展 WONDER RIO – BRAZIL

リオのスラムの子どもたちが写した写真と永武ひかるさんの写真のコラボレーションで
リオの活力と素顔を紹介します。会期中、永武さんのトーク&スライドショーも行われます。

<会期>
2015年5月16日(土) 〜6月14日(日) 10:00-16:30
会期中無休(5/27、6/3、6/10は18:00まで開館)

<会場>
京都外国語大学 ユニバーシティギャラリー 入場無料
京都市右京区西院笠目町6 京都外国語大学9号館6階

<関連イベント>
京都外国語大学国際文化資料館 第7回公開講座
「ワンダーリオ:スラム地域での活動から」
写真家・ワンダーアイズプロジェクト代表 永武ひかる
5月16日(土)13:30〜 京都外国語大学171教室

<お問合せ先>
京都外国語大学国際文化資料館  Tel: 075-864-8741

後援:駐日ブラジル大使館
主催:ワンダーアイズプロジェクト/京都ラテンアメリカ研究所/京都外国語大学国際文化資料館
協力:FIRJAN(リオ工業連盟)/キヤノン株式会社/京都外国語大学ブラジルポルトガル語学科/
国際言語平和研究所/博物館学芸員資格課程

永武ひかるさんによる、
世界のともだち③『ブラジル 陽気なカリオカっ子ミゲル』はこちらです。

永武ひかる

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東京外国語大学でポルトガル語や人類学を学び、銀行や写真通信社を経てフリーの写真家に。ブラジルでの撮影は20年以上にわたり、南米など世界各地で主に自然と人間の関わりをテーマに取材。写真展「森に聴く〜アマゾン」「風に聴く」、著作に『アマゾン漢方』『マジカル・ハーブ』、世界の子どもたちが写した写真集『ワンダーアイズ』(プロデュース)等がある。2000年から世界の子どもたちが参加する非営利の写真プロジェクト「ワンダーアイズ」を主宰。国内外で写真展やワークショップを多数開催している。

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