インタビュー
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大人気シリーズ、「あかちゃんのあそびえほん」のアイデアはどうやって生まれたの? きむらゆういち先生のお宅におじゃまし、「あかちゃんのあそびえほん」誕生のひみつ、きむらゆういちさんご自身の、子育てへの思いをうかがいました!

大人気シリーズ「あかちゃんのあそびえほん」 大人気シリーズ「あかちゃんのあそびえほん」

── 大人気絵本として世代を越えて数多くのあかちゃんを笑顔にしているファーストブックの定番絵本ですが、この絵本が誕生したきっかけというのは何ですか?

実は長女が生まれたのがきっかけなんです。

よくあかちゃんのいる家にお客さんがくると、「ほら、こんにちはは?」ってあかちゃんの頭におじぎをさせたり、帰るときには手を持って「ばいばい、は?」ってさせたりしますよね。我が家も同じように教えていたら、ある日テレビのアナウンサーが「こんにちは。お昼のニュースです。」と言っているのを見た長女がテレビに向かって「こんにちは」っておじぎをしたんです。これはおもしろいと思いました。それで、工事現場にあるような頭をさげている人の絵を描いて、机の壁に貼っておいたんです。

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── そういったお子さまの日常からヒントを得て作品を描かれたのですね。

いや、そのときはただそれだけ。

それから二人目の子どもが生まれたとき、偕成社の担当編集者とファミリーレストランで打ち合わせをしていました。そんなときだからついつい雑談があかちゃんの話題になったんですね。そこから、あかちゃん絵本の話になって編集者に「何か新しいあかちゃん絵本はできないかしら?」と言われました。そのときに思い出だしたのが、壁にはったおじぎをしてる絵。ぼくはその場にあったファミレスの紙ナプキンを折ってボールペンでかいて最初のしかけのイメージを作ったんです。また、あかちゃんといえば「いないいないばあ」だと思い、同じしかけでこれもできるなって思ったんです。
さて、実際絵本にするとき、絵は他の画家の方に頼むことも考えたのですが、こんなに文字の量も少ない本だから、自分で絵も描かなきゃと思いました。それで、最初は同時に3冊、『ごあいさつあそび』『いないいないばああそび』『いただきますあそび』を作り始めましたが、なかなか絵がすすまずこの3点ができあがるまでに1年半ぐらいかかりました。

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── 二人のお子さまがきっかけで、ファミリーレストランの雑談の中から本になったとは! そのときの紙ナプキンや壁の絵はとってあったりするんですか?

こんなに評判の本になるとは思ってないからとってないですよ。

そもそも、その当時は書店に「あかちゃん絵本」というジャンル専用の棚がなかったと思います。種類が豊富になかったから読者も選択できなかったですね。長女が生まれた頃のことを思い出してもあかちゃん絵本は買って読んではいなかったと思います。そもそも、「本というのは文字を読むもの」といった意識があったから。この本を出版して、文字も読めないあかちゃんが笑っている! というのを聞いておどろきました。

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── 実際に本が出てからの反響はいかがでしたか?

発売してからすぐに再版が決まるくらい、よく売れたんです。ある児童書専門店の店主が、ふと見ると、お店で小さい男の子がまだおむつもとれない妹にこの絵本を読んであげているところだったそうです。すると、妹が「こんにちは」と絵本に向って90度頭を下げておじぎをしながらきいていたそうです。全ての本やドラマなどは、主人公に感情移入するものだから、当然絵本もそうだと思っていたけれど、絵本の登場人物が自分に向かって「こんにちは」と言っている。作ったときは意識したわけではないけれど、この本は直接絵本と対面して読める本だから、あかちゃんにも受け入れられるんだと思いました。

また、最近はおばあちゃんが孫に買ってあげたという声も多いんです。かつて子どもに読ませた親に孫が生まれて、また選んでくださっているんですね。

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── 読み手とあかちゃんがコミュニケーションをとれるというのがこの本の魅力ですよね! この絵本をつくるうえで、苦労はありましたか?

まず、本の開き方が新しかった。今までの本の概念から考えるとページを横に開くのが普通だったので、『いないいないばああそび』のように、上下に開く本はなかったんです。だからどうなるかと思ったけれど、この形が受け入れられて新しい「あかちゃん絵本」になったのです。それまでしかけというものも業界であまり使われていなかったのですが、この本が出てからあちこちで使うようになった気がします。今ではあかちゃん向け雑誌などにしかけのない月はないでしょうね。

また、あかちゃんには理屈よりも感覚的なものが重要。一つのものを見せるときでもドキドキとリズムが大切。「いないいないばあ」は世界共通のあかちゃんの遊び。本能的にあかちゃんがよろこぶことを、この絵本で表現できました。

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── キャラクター設定は最初から決まっていたんですか?

特に意識はしていませんでした。でも、子どもの身近にいる動物にしました。鳥はピイ、ねこはミケ、犬はコロ、かいじゅうさんはかいじゅう。分かりやすいシンプルな名前が良いと思ったからです。でも、主人公は初め長女の名前でしたが、男女両方のあかちゃんが楽しめるような名前にしようと、ゆうちゃんにしました。自然でシンプルな名前だからこそ古くならないのかもしれないですね。

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── 最初の3点が出てから15年後の2003年、「おでかけ版ボードブック」が発売されます。オリジナル版同様に大人気商品で、読者からはオリジナル版と「おでかけ版」の両方を買って用途に合わせて読んでいます、という方もいらっしゃいます。

もともとこのシリーズは紙に凝っていてオリジナル版はあかちゃんの肌にもやさしいやわらかい紙を使っています。でもしかけの本だから、何度も遊んでいるうちにボロボロになってしまうという声もあった。また、一人目がボロボロにしたら二人目で買いなおさなければならない。だから、持ち歩いても丈夫なボードブックをつくることになりました。映像や電子書籍ではこの本の魅力は表現できません。ページをめくって何度も読んで楽しめる絵本です。

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── 子育て中のお母さん、お父さんにメッセージをお願いします。

子育ては大変です。でも、実際に子育てをして思うのは、あの子育ての大変さが良かったんだと思います。全てが子にとって初めてのこと。そして、親だって初めてですから。子どもと一緒に成長を体験していくことが大事ですね。全てが思い通りにはならないからこそ、その大変な思いが親を成長させるのではないでしょうか。だから、育児と仕事はどっちが大事? とこの2つを並列して比較するのはおかしいと思います。ひとつの命を成長させていくということは仕事と比較するレベルのことではありません。人類400万年、育児をそまつにしたら、我々は今、存在すらしていないんです。たとえ、仕事をしていて子どもと会える時間が少なくても「あなたが大切だからがんばっているんだよ」と子どもに伝えましょう。そして「ながら育児」はやめる。忙しくても、ちゃんと向きあって一人の人間として真剣に子どもと対峙して付き合った時間があれば大丈夫です。そうして子どもと一緒にいる時間を大切にして下さい。なにしろ子育てに勝る仕事はないのですから。

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── そう考えると絵本を読む行為は「ながら」ではできないですね。
特に、「あかちゃんのあそびえほん」は親に読んでもらわないと楽しめない。

そうですね。その時間は子どもにとって親を独占できる特別な時間です。親と子が向き合うのにベストなのがこの本かもしれません。

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