時は宋の時代。もう一人の封魔である、楊月の物語。貧しさ故に実験台にされ、人間ではない生物.封魔の餌食となり、生まれかわった少年・楊月。自分の人生を食い尽くした体制に一人復讐を企てた楊月は、李斗を仲間に引き入れようとする。しかし、李斗のけなげな心に触れ、李斗の攻略に失敗し。昔のことを振り返りながら、とある村に着く。そこにもまた悲しい物語を背負った少年がいた。
デザイン科を卒業後、上京。SF・ファンタジーの分野で多数の作品を手がける。主な仕事に『虚空の旅人』『蒼路の旅人』『不思議を売る男』『宝島』『幽霊の恋人たち』『西遊記』『フランダースの犬』『魔法使いハウルと火の悪魔』『ローワンと魔法の地図』などがある。
この作品は『封魔鬼譚』の外伝的な位置づけで、李斗と対照的な性格のもうひとりの封魔・楊月が主人公になります。時系列的には『封魔鬼譚——尸解』のあとの物語です。
副題の「渾沌」は「混沌」とも書き、秩序のない状態を意味します。英語の「カオス」という言葉のほうがなじみがあるかもしれません。
中国の古代の思想においては、孔子の儒教を「秩序」とすれば、道教は「渾沌」であらわすことができます。「渾沌」は完全な無秩序(ランダム)ではなく、人の手がくわえられていない「無為自然(あるがままの状態)」のことです。われわれの住むこの世界そのものが「渾沌」であり、人のつくる社会システムはその渾沌に秩序をあたえる行為ともいえます。道教の祖である老子や荘子はこの「無為自然」を重視し、儒教に批判的でした。善悪の概念も人がつくりだしたものであり、世界に善悪はなくただ「あるがまま」なのです。「あるがままを見る・うけいれる」という老荘の思想は複雑化した現代社会においても再評価されています。
泉州を離れた楊月は、その道中、とある村にたどりつき、怪事件にまきこまれます。李斗とちがって判断力があり怪異に慣れている楊月ですが、その彼ですら翻弄されるような状況におちいることになります。
この物語における渾沌とはなにか? 今回は楊月とともに真相を解きあかしてみてください。
中国古典文学に精通している著者が満を持して書いたチャイニーズホラーファンタジー。14才の少年李斗を主人公に、魔物になりながらも、自分らしく生きようと迷う姿を描きます。