時は宋の時代。舞台は中国の港町泉州。14歳の少年、李斗はある日、自分の屋敷に妖魔がすみついているのではと疑う。そこで妖魔退治を専門とする白鶴観へ相談に向かうが、そこで〈ウサギ〉に、右足を食いちぎられ、死んでしまう。だが驚いたことに、李斗は生きていた。夢だったのかと思ったが、親友の呂方から、李斗は確かに、死んだはずだと伝えられる。では、今ここにいる自分はだれなのか? 一体、自分の身に何が起きたのか? 南宋時代の泉州を舞台にした、封魔鬼譚、序章の物語。『三国志』『水滸伝』など中国古典でおなじみの渡辺仙州氏が書いたチャイニーズホラーファンタジー。
デザイン科を卒業後、上京。SF・ファンタジーの分野で多数の作品を手がける。主な仕事に『虚空の旅人』『蒼路の旅人』『不思議を売る男』『宝島』『幽霊の恋人たち』『西遊記』『フランダースの犬』『魔法使いハウルと火の悪魔』『ローワンと魔法の地図』などがある。
この作品はいまから千年前の中国、北宋の時代を舞台にしたチャイニーズホラーファンタジーです。千年前といえば、日本は平安時代。かな文字が普及し、日本独自の文化ができあがりつつあるころ、中国では「水滸伝」の頃で、庶民の文化が花開いていました。木版印刷の普及によって多くの書が出版され、街では講談師が三国志などの物語を語り、港では海外交易をおこなう船が多く行き来したりと、とても活気のあった時代です。
中国三大発明である印刷・火薬・羅針盤が実用化され、技術や文化が大きく発展した時代。こういう自由でにぎやかな時代というのは、人びとの行動が活発化して、世のなかが急激に変化するぶん、数多くの奇々怪々な事件が起こる時代でもあります。
物語の舞台である北宋の大きな港町・泉州も例外ではありません。巷をさわがせるあまたの怪事件。それが口づてにつたわり、背びれ尾びれがついて、なにが真実か虚かわからなくなる。そんな事件の解決にのりだす白鶴観(道教寺院の名前)の道士たち。ちなみに副題となる「尸解」とは、死んだ道士が自分の肉体を現世におきざりにし、仙人としてよみがえることです。
この物語の主人公、大商人の息子として生まれた十四歳の李斗も、泉州をさわがす虚実不明の「尸解」にかかわる怪事件に巻きこまれます。やがてそれは李斗自身の存在意義をもおびやかすことになります。李斗とともに「尸解」事件の真相にせまってみてください。
中国古典文学に精通している著者が満を持して書いたチャイニーズホラーファンタジー。14才の少年李斗を主人公に、魔物になりながらも、自分らしく生きようと迷う姿を描きます。
本書のイラストに目をひかれ、思わず手に取りましたが、たちまちストーリーと登場人物の魅力に取り憑かれ、ページをめくる手が止まらなくなりました。(37歳)