ベネベントは、本当にある町です。一見ごくふつうの町ですが、ひとつだけ、とてもかわっていることがあります。それは、世界中のどこよりも魔物がたくさん住んでいるということ。魔物は、町のいたるところにひそんでいます。井戸の中、橋の下、劇場のあと……。もしかしたら、おとなりさんや家族のだれかが、魔物かもしれません。ほら、またきょうも魔物がいたずらを始めたみたい。ベネベントの子どもたち! 魔物に目をつけられないように、くれぐれも気をつけて。
内気でのんびり屋のマリア・ベッピーナは、劇場広場がこわくてたまりません。広場には年老いた魔女が住んでいて、子どもをみつけると追いかけてくる、といわれているからです。だから、ベネベントの子どもたちは広場をよこぎるとき、全力で駆け抜けます。ところが、足がおそいマリアはいつも最後。今にもうしろから魔女が迫ってきて、つかまるのではないかと、おびえてばかりいました。でも、マリアはふと思いました。魔女はわたしみたいな子どもをつかまえて、どうするの? そしてある日勇気を出して、うしろをふりかえってみたのです!
むかしから魔女が住むという伝説のある、イタリアの実在の町ベネベントを舞台に、1820年代の人々のくらしをイメージして書かれた昔話風の創作童話。魔女と人間が共生する世界でまきおこる日常のちょっとした事件を、ユーモラスかつミステリアスに描きます。
このシリーズは、「しかけ」に満ちています。巻ごとに主人公の子どもたちが交代するのですが、語られるのは、同じ時期の同じ出来事。それを、読者はそれぞれの視点から多面的に追っていくのです。たとえば、みんなとはぐれた友だちが、本当はどこでなにをしていたのか? なにかを言いかけて口をつぐんだ友だちは、そのときなにを考えていたのか? ちりばめられていたナゾの真相が、巻を追うごとに少しずつ明らかになっていくので、つづきの巻も見逃せません!
コルデコット賞を2度受賞した画家が描く、クラシカルな味のあるイラストも大きな魅力。見開きごとに絵が入っているので、1人読みにぴったりです。そして、じつは巻をまたいでつながる絵があったり、同じ構図だけれど細かいところが少し違う絵があったりと、遊び心もたっぷり。巻末には、「魔物事典」や、当時と今のくらしの違いを解説するおまけのページもついていて、お話の背景がより深く楽しく理解できるようになっています。