取材日記

本をとどけにエチオピアへ!③

2017/06/08

エチオピアの主人公・ナティがくらすゴンダールから、小旅行へでかけた東海林美紀さん。「つぎに会うときは旅行をしよう!」というナティとの約束を果たすためでした。けれど、撮影時には平和そのものだったエチオピアの状況は変化し、子どもたちとの旅行にもその影が。2016年に、完成した本を届けにエチオピアを訪れた東海林さんからの報告です。(ブログ・本をとどけにエチオピアへ!①はこちら。②はこちらで読めます)


バハルダール行きのミニバスに乗りこんで出発を待っていると、お父さんの携帯電話が鳴りだしました。お父さんの会話をきいていたナティとリリーの顔が暗くなっていきます。電話を切ったお父さんはわたしに、「バハルダールには行けなくなったよ。今、道路も封鎖されて、すべてのお店も閉まったばかりらしい」と言いました。

そのころ、エチオピア各地では政府に抗議するデモが行なわれていて、たくさんの人が亡くなっていました。ゴンダールやバハルダールもデモが行なわれている地域。バハルダールはしばらく平穏な日が続いていましたが、また暴動がおこったというのです。

わたしたちはミニバスから降りて家にもどろうとしましたが、あきらめきれないナティとリリー。結局、道路封鎖のされていない湖沿いにある村に行くことに決めました。ミニバスの中から湖が見えると、「窓を開けたら、空気がとても新鮮でおいしいね!」と、はじめて湖を見るリリーはずっと窓に顔を近づけたままでした。

わたしたちは古い教会を訪れ、湖を見ながらランチを食べてゴンダールへともどりました。

 

 

ゴンダール滞在最後の日。ナティとふたりでカフェへ行きました。ナティは甘そうなチョコレートケーキ、わたしはアボガドのジュースを注文しました。そして、そこでナティが話しだしたことに、わたしはショックと驚きをかくせませんでした。

「前に、アクションスターになって、エチオピアか海外で働きたいと言ったことは覚えている。でも今は、エチオピアを出たいんだ。銃で人を殺すことはとても怖い。平和な国に行きたい」「実は、僕もそこにいたんだ…」

ナティも、デモの参加者と軍の人たちの銃撃を見ていたひとりだったのです。

お母さんに頼まれてひとりで市場にスパイスを買いに行ったときのこと。遠くで銃声のような音がきこえましたが、ナティは子どもたちが遊んでいる音だと思いました。すると、急にたくさんの人が市場に流れこんできて、銃で撃たれた人たちが目の前で血を流しながらたおれていきます。ナティは市場の近くの知り合いの家に逃げこみました。

ナティとはべつの場所で銃声をきいたお父さんは、急いで家に帰り、ナティがいないことに気づきました。動揺しているお母さんは、泣いていて、おつかいを頼んだナティが市場にいることを、お父さんに話すことができません。

お父さんはナティの携帯に電話をしました。「今、迎えに行くから、そこから離れてはいけないよ」。お父さんはナティにそう伝えましたが、ナティは少しでも早く家に帰りたいと思い、銃声がいったん聞こえなくなると、一目散に走りだしました。お父さんはナティを迎えに行きましたが、市場への道路は封鎖されて、近づくこともできません。ナティはひとりで、銃声がきこえるたびに近くの民家に入れてもらいながら、なんとか無事に家にたどりつくことができました。

この銃撃で、近所に住んでいた知り合いのカメラマンのお兄さんが亡くなりました。ナティは友だちといっしょに、遺体が家に運ばれてくるところを見にいきました。そこで、その家のお母さんや家族たちが泣きながら遺体と対面するのを見て、ナティも友だちといっしょに泣きました。

そのときのナティや家族、そしてその場所にいた人たちの恐怖を考えると、胸がしめつけられるような想いでした。今回、わたしがゴンダールにいる間、街は平和そのものでした。そして、それまでもゴンダールの街はいつもおだやかでした。子どもたちから「銃のない平和な場所に行きたい」ときくのは本当につらく、まさかナティとこんな話をする日がくるとは想像もしていませんでした。

ナティの携帯電話の番号をきき、日本へ帰ってきてからも、いつでも連絡がとれるようになりました。電話をすると、いつも元気な声をきかせてくれます。

一日でも早く、みんなが安心して暮らせる日々にもどれますように・・・・・・。またゴンダールを訪れてナティたちに会える日が早くきますように!

(写真・文 東海林美紀)

東海林美紀

関連記事一覧

1984年山形県鶴岡市生まれ。2007年から2年間、青年海外協力隊に参加。アフリカ・ニジェールの現地NGO事務所と診療所でHIV/エイズ対策にとりくみ、サヘル地帯にくらす人びととの生活のなかで撮影をはじめる。帰国後はアフリカ、アジアの女性の健康と権利をテーマに撮影をおこなう。撮影を担当した本に『世界女の子白書』などがある。現在は、世界と日本各地にのこる伝統的なくらしと自然を撮影・取材している。

  • チェック