取材日記

ジャンパオロに会いに行く

2016/05/25

今年の1月、ふたたびジャンパオロに会いに、イタリアのサルデーニャ島に行ってきました。まずは学校へ。「ボンジョルノ!(こんにちは!)」となつかしい顔が満面の笑みをならべて待っていてくれました。みんなひと回り大きくなっていてびっくり! 先生たちも集まり、「本を見たわよ! 素晴らしいわ。ありがとう!」と口々にいわれ、言葉が弾丸のごとく降りそそぎ、私の出る幕はまったくありませんでした。

学校のあとは、ジャンパオロのお父さんの経営するホテルに親戚一同集まって、ランチ会。おいしいサルデーニャ料理とともに、おしゃべりが続きます。
ジャンパオロの父アントニオは、私を見るなり抱きついて「ノリコ、ありがとう。本当にありがとう。」その腕の力は強く、その言葉にも重さがありました。その重さには、ジャンパオロの母、マリーナの分も含まれているように感じました。
本の撮影も終わり、編集作業をしていた昨年の9月2日に、マリーナはガンで亡くなったのです。

ジャンパオロに会うことのほかに、私にはどうしてもやりたいことがひとつありました。それは彼女のお墓に、この本の完成の報告に行くこと。お墓は自宅から車で5分ほどの綺麗な丘の上の墓地にありました。まだ墓石ははめこまれておらず、コンクリートの肌がむき出しでしたが、たしかに彼女が眠っている場所でした。本をたてかけ、「マリーナさん、あなたがとても楽しみにしていた本がやっとできました。遅くなってごめんなさい。間に合わなくてごめんなさい。直接見せて、あなたの笑顔が見たかった。」と話しました。お墓に連れて行ってくれたマリーナの妹カテリーナは涙を流し、「なぜ、私じゃなくてマリーナなの? なぜ? 私は結婚しているけど子どもはいないし、私が代わってやりたかった。」と神様に問いかけるように泣き崩れました。とても仲良し姉妹だった彼女たちを見ていた私は、彼女の気持ちが痛いほどわかりました。墓地を出るとき、カテリーナがいいました。「実はお墓には来たくないの。マリーナのお墓を見ると、死んだことを認めなくちゃいけないから、つらいのよ。」

撮影を始めるころにマリーナにガンが見つかり、ジャンパオロではなく違う子どもを撮影するべきかどうかとマリーナに相談したこともありました。すると「私は大丈夫。ぜひうちの子を撮影してほしい。なんせ、イタリアの代表なのだから!」と笑った、彼女の顔を思い出します。抗ガン剤による治療は彼女の体力をうばい、ベッドで横になっていることが多い日もありました。「子どもたちには私がガンだということはまだ言ってないの。だからそのことはふせておいてほしい。」といわれていた私は、ジャンパオロの妹のプリシッラに「ノリコ、なんでお母さんの熱は下がらないの? なんでずっと寝ているの?」と聞かれ、答えに困ったこともありました。
私は彼女の意思を尊重して、一切、病気のシーンの写真を撮らないことにしました。彼女が元気な姿だけを掲載したい。抗ガン剤治療がない時期はまったくふつうに暮らしている彼女を見て、病気なんてどこかにいってしまったかのようにも思ったこともありました。

撮影は順調に進み、帰国して写真のセレクトや原稿書きに突入したころ、訃報をカテリーナからもらいました。私は、いてもたってもいられず、撮影のコーディネートをしてくれた、サルデーニャ在住のトモコさんに電話をかけました。特にジャンパオロのことが心配でした。彼はわんぱくでいたずらっ子だけれど、とても繊細で優しい子。きっと悲しんでいるに違いない。すると、子どもたちはまだ状況を把握していないようでケロッとしている……。電話口のトモコさんはそういいました。

お母さんがもういないことを改めて知ったとき、彼はどうなってしまうのだろうか、と不安をつのらせながら、今回の訪問となりました。でも、ジャンパオロもプリシッラもとても元気にしていました。どちらかというと大人たちの方が、メソメソと落ち込んでいて、あらためて子どもってすごいなあ。生きる力が強いなあ。と感じました。

「マリーナさん、ジャンパオロもプリシッラもやはりあなたの子どもです。明るく元気に成長していますよ。悲しんでばかりじゃ前に進めないことを私も子どもたちから教えてもらいました。」
私ができたことは、彼らの何気ない日常を淡々と記録し、その写真を残せたことくらい。
でも、それができたことが、今私の生きる力になっています。ありがとう。

(写真・文 山口規子)

山口規子

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栃木県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。文藝春秋写真部を経て独立。女性誌や旅雑誌を中心に活動中。「イスタンブールの男」で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、「路上の芸人たち」で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。著書に『メイキング・オブ・ザ・ペニンシュラ東京』、『Real-G 1/1scale GUNDAM Photographs』、『奇跡のリゾート、星のや 竹富島』(共著)など。料理やくらしに関する撮影書籍は多数。旅好き、猫好き。

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