取材日記

ロシアの家族

2016/06/06

安井さんの取材日記の2回目。セミョーンのお父さんとお母さんとの関係性について、本では紹介しきれなかったエピソードを語っていただきました! 美容院にいくことになったセミョーンの、思春期の男子らしい一面も見どころです。

きびしいお父さんとやさしいお母さん
ロシアに住んでいて思ったことのひとつに、ロシアの男性は少し「マッチョ」なところがある、ということがありました。ロシアにはいまでも徴兵制がありますし、生活の中でも「男らしい」みたいないいまわしをよく耳にします。

セミョーンたちのお父さん、少し強面のアレクセイさんは、子どもたちに対するしつけも熱心で、男の子のセミョーンにはとくにきびしいと感じました。セミョーンには、まずはなんでも自分の力でやってみるように教えているそうです。そのせいか、セミョーンはお父さんの前では、とても自立心と好奇心が旺盛な男の子です。ダーチャ(別荘)では、薪割りや水汲みなどの作業をだれよりも率先しておこないます。高いところから海に飛び込んだり、四輪バギーで遠出をしたり、とにかく冒険が大好きです。

一方、お母さんの前では、セミョーンはびっくりするくらい甘えん坊です。セミョーンは何かに失敗したり、いやなことがあると、すぐに塞いでしまうところがあります。そんなとき、お母さんのガリーナさんはかならずやさしく話を聞いてあげるそうです。みていると、あれ、さっきまでの威勢はどこへ? というくらい、デレデレになって甘えています。母親の愛情の前には、どんな男の子もかなわないということでしょうか。きびしいばかりや、甘やかしてばかりのしつけだと少し心配になってしまいますが、両親がそれぞれの役割をしっかりと持っているのはすばらしいことだと思いました。


そんなご両親ですが、「世界のともだち」の取材を受けるにあたり、ロシアのほんとうの姿を日本の子どもたちに見てもらいたいと、快く引き受けてくれました。セミョーンのような、これからの世代が、日本とロシアの関係をもっと近づけてほしいし、自分の家族がその手伝いをできるならうれしい、といってくれました。

 

お年ごろなセミョーン
セミョーンは11才の男の子。年齢的には当然のことですが、思春期のはじまるころです。外に出かけるときは、髪型をセットしたりして、かならず少し格好をつけていきます。お母さんのガリーナさんによると、最近は自分で髪型を決めて、美容院でカットしてもらうようになったそうです。

ある日、セミョーンが美容院へ行くのについていきました。美容師のお姉さんには、本の取材のことを伝え、撮影の許可をもらいました。ところが、セミョーンがあまりにもカメラを意識してしまい、ずいぶんとぎこちない写真ばかりに。わたしは思わず笑ってしまいましたが、もし自分が逆の立場だったら、きっとわたしも緊張するだろうなと思いました。大人も子どもも関係なく、人を写真に撮るとき、いつもこのような問題に向きあわなくてはなりません。はずかしい話ですが、わたしはこのとき、はじめてセミョーンの生活に、カメラをもって干渉している自分の存在を自覚したのでした。

それから、こんなことがありました。友達と遊びにセミョーンが出て行こうとしたところ、お母さんがわたしをつれていくようにいいました。お母さんとしては、せっかく日本から取材に来ているのに、失礼ではないかと心配してのことだったのでしょう。ところが、セミョーンはいやだとはいえないけど、明らかに友達とはひとりで遊びにいきたそうなようす。わたしはふたりだけで話をするためにセミョーンを呼び、「本作りをする上で、自分がいやだと思うことはなにもしなくていいんだよ」と伝えました。それを聞いて、安心したようすで外へ飛び出していくセミョーンをみて、わたしも少しホッとしました。年ごろの男の子にとって、友達とあそびにいくのに謎の外国人カメラマンを連れていくのに抵抗があるのは、いたってふつうだとわたしも思うからです。

ですが、これをキッカケにして、わたしとセミョーンとのあいだに、それまでとは違う自然な空気が流れたように思えます。それからは、セミョーンが自分でわたしを誘うかどうか決めましたし、3度目の訪問のとき、夏のダーチャでは、彼にとって特別な四輪バギーで、毎日のようにいろいろなところへ連れて行ってくれました。バギーのうしろに乗せてもらうとき、「光栄です、ミスター」とわたしが冗談をいうと、声を出して笑っていました。もうすぐ取材を終えて日本へ帰るのがさびしいな、と思った瞬間でした。

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安井草平

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1983年神奈川県茅ヶ崎市生まれ。日本写真芸術専門学校卒業後、「現代写真におけるロシアのビジュアルイメージ」を研究テーマにロシアへ留学。ロシア連邦カザン大学にて6年間にわたりリサーチをおこないながら作品を制作。これまでにドイツ、ロシア、ラトビア、カンボジア、インドなどで作品を発表。2015年6月に、国内で初めての個展 「An Uncertain Circle – ロマの村からの日記」を新宿コニカミノルタプラザにて開催。

 

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