取材日記

多民族、多宗教、多言語の国インド

2015/02/13

きょうのブログは、桃井和馬さんによる『世界のともだち インド』の取材日記第2弾!(1回目はこちらへ)みなさん、インドというとどんなイメージがあるでしょう? 今回の取材日記では、桃井さんがいまのインドについて紹介しています!

 

日本の多くの人は「インド」や「インド人」という単語から、カレーを思い浮かべたり、ターバンを巻いた「インド風」の顔つきをした人を連想するのではないでしょうか? しかし実際のインドは、そんなステレオタイプなインド観ではまったく理解出来ません。

そのことは、使われている言葉からも考えることができます。
インドの公用語はヒンディー語ですが、それ以外にも憲法で保障された言葉は22言語。言葉のちがいとは、すなわち文化や生活様式のちがいです。つまり、まったく異なる文化や生活様式をもつ集団が最低でも22集まってできたのがインドです。そのため、ヨーロッパの白人の人たちに近い肌の色をした人、アフリカの黒人の人たちに近い肌の色をした人たち、そして私たち日本人と見わけがつかない肌の色と顔の形をした人たちも、インドには住んでいるのです。インドはまちがいなく、多民族、多宗教、多言語の巨大なモザイク国家なのです。

それは食生活でも同様で、日本人が「カレー」と考える食べものでも、一口食べてみると、地域によって辛さも、使われる素材も、様ざまで、まったくひとつでないことに気づくのです。

この本の主人公、アルナブくんのひいおじいちゃんは、元々インド北部にあるパンジャブ州の出身者。アルナブくん自身は大都市デリーで生まれましたが、今でも、家族はパンジャブ州の習慣を守りながら生活しています。そのため、日常的に食べる料理は、必ずパンジャブ州の料理です。パンジャブ料理は、野菜と乳製品、それにターメリックなどの香辛料をたくさん使うので、色だけは黄色や赤色と辛そうですが、実のところ、まったく辛くはありません。


アルナブくんの家族が住んでいるのは、デリーにある高級住宅地。高い塀でかこまれたその場所に入るためには、警備員がいるチェックポイントを通過する必要があります。インドの治安は日本より悪いので、警備には十分にお金がかけられているのです。


興味深いのは、その高級住宅地は主にパンジャブ州出身者が住んでいることでしょう。
パンジャブ出身者といっても、宗教は様ざまで、ヒンドゥー教、シーク教、イスラム教、キリスト教の人もいます。しかしデリーなどの都会においては、宗教や肌の色はちがっても、同じ郷里の人同士で「村」をつくり、生活することが多いのです。

言葉や食生活が同じ人同士が、いっしょの地域で生活する方が格段に都合が良いからです。





インドの言葉のちがいは、単なる方言によるちがいではなく、文法までちがう「異なる言語」を意味します。そうした相手とコミュニケーションをとるときに使われのが、公用語のヒンディー語で、またビジネスにおいては、インド人同士でも英語が使われているのです。
ちがう言葉を話す人と生活するのは容易ではありません。そこで同じ地区に同郷の人たちがまとまって住む傾向が高くなるのです。

この本では、ヒンドゥー教をはじめとした宗教にも触れてみました。
日本で「宗教」というと、負のイメージをもつ人も少なくありません。しかしインドでは、特定の宗教をもっていないことのほうが不審がられます。どこにでも寺院などの宗教施設があり、人びとは日常的にそうした場所を訪れ、お祈りを捧げるのです。

宗教があることはインド人にとってあたりまえなのです。そのためでしょう。落ち着いた雰囲気の静かな寺院もあれば、アミューズメント・パークと同じように乗りものやショーがある宗教施設もあるのです。それぞれの自由を犯さなければ、すべてを認める。それが宗教大国インドの前提なのです。


アルナブくんを取材する中で、日本とは教育方針がちがうことも知りました。
特に興味深かったのは、先生がとても怖かったこと。日本では、近年「怖い先生」が激減しているようです。しかしインドでは、学校の先生は「怖い」存在。怖くなければいけないととらえられているようです。そのため、私と話すときには、ニコニコ顔の先生も、教室の中に入り、生徒たちと向き合った瞬間から厳しい顔になり、額にシワを寄せ、一切の妥協を許さない厳しい先生になるのです。


インド人は、教育=権威であり、教育=厳しいものと信じているようです。これは塾も同様で、授業の間はどの先生も厳しいのが印象的でした。

けれども、こうした厳しい教育の成果が、今では着実にインド社会を根底から変えつつあるのです。貧しい階層には、学費や入学枠に特例も用意されています。教育が人びとの認識を変え、ひいては社会を変える源になることを長い歴史を誇るインド人は熟知しているのでしょう。なにせインドは、「ゼロ」という数学の概念を見つけた国なのですから。

(写真・文 桃井和馬)

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桃井和馬

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1962年生まれ。写真家、ノンフィクション作家、日本写真家協会会員。桜美林大学特任教授。これまで世界140か国を取材し、「紛争」「地球環境」などを基軸に、独自の切り口で「文明論」を展開している。第32回太陽賞受賞。主要著書に『もう、死なせない!』(フレーベル館)、『すべての生命(いのち)にであえてよかった』(日本キリスト教団出版局)、『希望の大地』(岩波書店)他多数。

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