取材日記

ソンとチュンたちとワニ園へ

2014/04/25

きょうの取材日記は、『ベトナム』を撮影した鎌澤久也さんです。前回の取材日記は、ふたごとの出会いでしたが、きょうは、ある日の取材のようすです。こんなふうに、子どもたちの「ふつうの一日」に毎日つきあって撮影されたんだなあと思いました……

ある日、ソンとチュンが「ワニを見にいこう」といいました。お姉さんも「わたしもいく!」といいます。ワニがメコンデルタに棲息しているとは思ってもいなかったので驚き、「どこにいるの?」ときくと、家の近くにワニ園があり、ホーチミン市にいる人が経営しているのだといいます。しかも家から歩いていける距離だというではありませんか。さっそくでかけることになりました。

歩きはじめると、ソンとチュンたちは途中から道をそれ、人の家の庭へ勝手に入っていきます。「えっ、ここを通るの?」ときくと「これが近道だ」といいます。ソンとチュンたちの姿をみたその家の人が、「雨期であぜ道がぬかるんであぶないよ」と、子どもたちをとめました。でも「大丈夫!」といい、ソンとチュンたちは裏木戸をあけ、家の敷地にどんどん入っていきます。

途中水路があり、丸太が一本、橋がわりにあるだけのところにでました。乾期ならともかく、慎重にわたらなければ水がたっぷり流れている水路に落ちてしまいます。

どうにか丸太橋もクリアし、たどりついたところはワニ園の裏側で、ワニの飼育場でした。しかもタダで入れます。それで裏道を通ったんだとぼくは納得しました。飼育場は3棟ほどあり、どのおりにも数十頭のワニがごろごろしています。そこを過ぎるとブランコやシーソーのある公園になっていて、金網のなかで大蛇も飼っています。

ソンとチュンはその大蛇を遠くからそっとのぞき見しています。ぼくは「大丈夫だからもっと近くによってごらん」といいますが、恐がって近づこうとしません。それがおかしくてわざと金網ぎりぎりまで近づくと、ふたりとも真剣にぼくのシャツを引っぱってとめるのです。

目指すワニのおりはいちばん奥、つまり正面入り口の近くにありました。手すりによりかかって見ていると、ワニはときどきしっぽをふってバシャンと水を打ち、ものすごい音をたてます。そのたびに、みんなはオーッと声をあげて驚きました。

しばらくワニ見物を楽しんだあと、ブランコやシーソーに乗って遊んでいると、園の係員がやってきて、「入場券を買って」といいます。ソンとチュンのお姉さんが「いまでるところなの」というと、「じゃあ、はやくでてね」といい、係員はそれ以上なにもいわず、その場から離れていきました。


結局入場券を買わず1時間近くワニ園で遊び、同じように裏道を通って帰ってきました。

ふたたび丸太橋のところにでると、子どもたちはスイスイ渡っていきますが、あとについて慎重に渡っていたぼくは、とうとう足をすべらせ水路に落ちてしまいました。

水路は、腰近くまで深さがあり、底がどろどろでなかなか抜けだせません。子どもたちだったら胸近くまで水路につかることになり危ないところでした。裏道に抜ける家の前にたどりつくと、「だから言わんこっちゃない」とその家の人に笑われてしまい、落ちたのがぼくだっただけに、ちょっとはずかしい思いをしました。


(写真・文 鎌澤久也)

鎌澤久也さんによる、『ベトナム ふたごのソンとチュン』の
くわしい情報はこちらからどうぞ!

 

鎌澤久也

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1952年岩手県生まれ。東京写真専門学校卒業。(社)日本写真家協会会員。駒澤女子大学非常勤講師。1980年よりアジアの人々、とりわけ少数民族の生活に関心を抱き、彼らの衣、食、住に関わる写真を撮り続ける。近年はメコン川や長江などの大河を遡上し、そこに住む人たちの生活に密着して写真を撮っている。「雲南」「メコン街道」など写真展を多く開催。著書に『雲南』『雲南・カイラス4000キロ』『玄奘の道・シルクロード』『メコン街道』『シーサンパンナと貴州の旅』などがある。

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