取材日記

ソンとチュンを訪ねて

2014/04/04

きょうの取材日記は『ベトナム』を撮影した鎌澤久也さんです。ふたごのソンとチュンとは、ふたりが赤ちゃんのときに出会ったそうで、最初の出会い、そして再会のことを語っていただきました!

いまから10年ほどまえ、ベトナムの家族の日常が撮りたくて、小舟でクリーク(小さな川)をあっちへ行ったりこっちへ行ったりしながら、家々へ立ち寄って取材をしていました。

そのときにめぐり会えたのが、グエンさん一家です。大家族で子どもが大勢いて、写真を撮るためにさがしていた、理想的な家族でした。一家の主に来意をつげると、快く受け入れてくれて、しかも「家に泊まっていけ」といいます。グエンさんの家のまわりには、兄弟の一家が住んでいました。経営する果樹園を親せき一同みんなで手伝っていたので、人が多く出入りする家だったのです。だからぼくは大家族の家かと、かんちがいしていました。たくさんいた子どもたちのなかには、当時1才のふたごの赤ちゃんもいました。

10年間再会することなく時が過ぎましたが、「世界のともだち」シリーズのベトナムを撮影することになり、主人公をだれにするか考えたとき、11才になっているはずのふたごのことを思い出しました。ぜひあのふたごを撮りたい! と考えたのです。

さっそくベトナムへ出発しましたが、10年まえに偶然訪ねた家庭なので、村の名前は覚えていたものの、それがどこにあるのかはっきりとした場所がわかりません。記憶もあいまいです。でも、なんとかしてこの子たちに会いたいと思い、10年まえに撮った写真を片手に、おおよその見当をつけさがしはじめました。

どうにか村にたどりついたときには、出発して3時間がたっていました。

村にたどりついたら、つぎは家さがしです。クリークにそってたっている家だということはわかっていました。でも、クリーク沿いの道も家も同じようにしか見えず、通りすがりの人に写真を見せてたずねても、要領を得ません。

ふたごはそれほど多くないはずなので村に着けばわかると、気楽に構えていたのですが、ようすがちがいます。おまけに雨期だったのでスコールに襲われ、びしょ濡れになってしまいました。でも、なんとしてもさがしだしたい……。ある家で、ここもダメかと思いながらたずねてみると、なんと写真の家に見覚えがあるというではないですか! 天にものぼる気持ちでした。

そしてとうとう目的の家を見つけたのです。ちゃんと場所を覚えていれば、さがしはじめた場所から30分で着けるところを、4時間かかり、10年ぶりのたいへんな再会となってしまいました。

ふたごのソンとチュンは元気に育っていました。その夜は親せきも集まってきて、夜遅くまで酒をのみかわし、みんなが再会を喜んでくれました。

最初の撮影はベトナムの夏休みのあいだだったので、ソンとチュンはうら庭の果樹園でフルーツをとって食べたり、近所の子どもたちとバッタとりに夢中になったり、夕方になるとメコン川にとびこんで水遊びをしたりしていました。ぼくもいっしょに川で泳ぎました。茶色くにごっているように見える水は、じつは手のひらですくうときれいなのです。



ソンとチュンは遊んでばかりではなく、お母さんの料理の手伝いもよくしていました。滞在中、毎日おいしい料理がでてきたので、日本に帰ってもグエンさんの家のベトナム料理がなつかしく、またみんなに会いにいきたくなりました。


写真・文 鎌澤久也

世界のともだち⑪『ベトナム ふたごのソンとチュン』の
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鎌澤久也

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1952年岩手県生まれ。東京写真専門学校卒業。(社)日本写真家協会会員。駒澤女子大学非常勤講師。1980年よりアジアの人々、とりわけ少数民族の生活に関心を抱き、彼らの衣、食、住に関わる写真を撮り続ける。近年はメコン川や長江などの大河を遡上し、そこに住む人たちの生活に密着して写真を撮っている。「雲南」「メコン街道」など写真展を多く開催。著書に『雲南』『雲南・カイラス4000キロ』『玄奘の道・シルクロード』『メコン街道』『シーサンパンナと貴州の旅』などがある。

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