取材日記

ケニアのお母さん

2014/02/19

きょうの取材日記は、『ケニア』を撮影した桜木奈央子さんです。お母さんでもある桜木さんは、撮影のあいだ、主人公のアティエノのお母さんとおしゃべりを楽しんでいたようです。
ケニアのふつうの女性のようすが伝わってきます!(桜木さんの取材日記1回目はこちら

「え、あなたの日本の家には冷蔵庫があるの?
いいわねえ。毎日買い物に行かないですむなんて、夢のようねえ」

アティエノの母親エマは、いつも日本の生活について知りたがった。

「洗たく機も、掃除機もあるなんて日本はマシーンだらけね。あなたも小さな息子がふたりもいたら大変でしょ。男の子はじっとしていないわよね。でもさすがに、子どもの世話をするマシーンは日本にもないでしょ」台所で、わたしたちはそんな話をして笑いあった。

電気と水道がない村での家事は、とても忙しい。例えば食事の支度。日本だったら、まず台所に立って手を洗い、冷蔵庫を開けるところからはじめるだろう。

それがケニアのウソマ村だったら、まずは手を洗うための水をくみにいくことからはじめなければならない。冷蔵庫はないので、食材はその都度、調達しなければならない。水と食材がそろったら、次は煮炊きするためのまきを拾ってきて、それを割らなければならない。かまどの準備をして、食材を切って、お米を炊くときは、その石をとりのぞく作業もしなければならない。鍋をいちど火にかけると、ずっと火の番をしていなければならない。

料理だけではない。洗たくも骨の折れる作業だ。どさっと積みあげられた、家族7人分の洗たく物。水をくんできて、たらいに水をはって、石けんをつけてごしごし洗う。こう書くとかんたんそうに思えるが、実際にやってみると体力がいる仕事だ。


エマは、マンゴーやオレンジなどのフルーツを小さな露店で売る仕事をしている。家から露店まで、徒歩で20分。炎天下、頭の上に重いマンゴーをのせてゆっくり歩く。

エマはどの仕事をしているときも、だれかとおしゃべりをしている。トマトを切りながら、洗たく物をごしごしこすりながら。近所の女友達や、マンゴーを買いにきたお客さんと、早口のルオ語で大きな声で勢いよくしゃべる。おなかを抱えて笑ったり、顔をしかめて怒ったり、肩をたたいてなぐさめあったり……。

まるでいっしょにおしゃべりをすることで、だれかの人生を経験しているみたいに見えた。それは、映画を見たり本を読むことにとても近いように感じた。おしゃべりは、ここでは最高の娯楽なのかもしれない。

みんなで料理をしながら、「わたしも日本にいってみたい」と、つぶやくアティエノに、「そのときはおみやげに洗たく機を買って帰るのよ!」とエマが真剣な顔でいっていたのが、印象的だった。

文・桜木奈央子

世界のともだち⑧『ケニア 大地をかけるアティエノ』の詳細はこちら
(桜木さんのウェブサイトには、ケニアでカレーライスを作ったエピソードがのっています。
こちらもいっしょに読むとおもしろいですよ!こちらから)

桜木奈央子

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1977年生まれ、高知県出身。立命館大学在学中に訪れたアフリカで戦争を目のあたりにして衝撃を受け、写真を撮りはじめる。著書に『かぼちゃの下で』(春風社)がある。小学校や中学校で「べつの生き方の可能性」をテーマにアフリカの暮らしを紹介する活動もしている。新聞や、雑誌「翼の王国」などに写真、エッセイなどを掲載。

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