取材日記

離婚から、ゆるやかな大きな家族へ

2013/12/18

『ブラジル』の主人公、カリオカっ子のミゲル。お父さんとお母さんは、ミゲルが小学生になるころに離婚している。ミゲルのお父さんは再婚し、別の家で新しいパートナーのマリアナといっしょにくらしはじめた。再婚したあとも、お父さんがミゲルの家に来たり、いっしょに遊びにいったりして、毎日のように会っているようだ。再婚相手のマリアナも、自分の両親は離婚して再婚した経験があり、子どもたちの気持ちがわかっているからと、ミゲルたちを大切にしている。

ブラジルでは離婚するカップルは少なくない。リオで学校の先生をしている友人は、「10年くらい前になるけれど、当時、娘が通っていた小学校(公立)のクラスで、わたしたちだけが唯一離婚していない家族だったのよ」と言っていた。2009年頃に離婚の手続きが簡単になったとかで、今では離婚の数はますますぐっと増えているらしい。

「正直言えば、離婚した時はつらかったわよ。カウンセリングも受けて、子どもたちにも理解してもらえるようにかなり努力したわ」とミゲルのお母さん。ミゲルたちも、小さいながら、心をいためることもあったはずだ。
「それに、離婚して別れた後に、ケンカしたりもめたりしているケースだって多いのよ。わたしたちのケースは例外よ」とお母さんは続けた。いまではゆるやかな大きなファミリーとなっているミゲルたち家族。「ぼくたちは離婚した家族の希望の星、と言われることもあるんだよ」ミゲルのお父さんが、離婚したばかりの友人にそう話していたこともある。そういえば、ミゲルのおじいさん(お父さんのお父さん)は、おばあさんが早くに亡くなったので再婚。相手の女性も離婚経験者で、クリスマスの親戚の集いには、その新しい奥さんの元夫という人もパーティーに参加していた。

「ブラジル人の親は、子どもより自分の恋愛を大事にしがちだから、子どもが傷つくの。再婚しないお母さんは、子どものために我慢しているのかもね」とブラジルの友人が一般論を語ったので、ある時、ミゲルのお母さんにたずねてみた。
「元の夫は再婚して、あなたは再婚しないの? 恋人は?」お母さんは「今はいないわね。本当にいろいろ大変だったし……」とキッチンで話をしていると、自分の部屋でその会話を聞いていたミゲルが、遠くから、「恋人は僕だからね、ママ?!」と大声をあげた。

文・永武ひかる

永武ひかるさんによる、世界のともだち③『ブラジル 陽気なカリオカ ミゲル』はこちら

永武ひかる

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東京外国語大学でポルトガル語や人類学を学び、銀行や写真通信社を経てフリーの写真家に。ブラジルでの撮影は20年以上にわたり、南米など世界各地で主に自然と人間の関わりをテーマに取材。写真展「森に聴く〜アマゾン」「風に聴く」、著作に『アマゾン漢方』『マジカル・ハーブ』、世界の子どもたちが写した写真集『ワンダーアイズ』(プロデュース)等がある。2000年から世界の子どもたちが参加する非営利の写真プロジェクト「ワンダーアイズ」を主宰。国内外で写真展やワークショップを多数開催している。

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