キャラクターミュージアム
menu もどる メイシーちゃん ノンタン もぐらくん おれたち、ともだち よこしまくん

コラムもぐらくん

2012.1

「ズデネック・ミレル星に遊びにいらっしゃい」 木村有子

 ズデネック・ミレルさんが90歳で亡くなられた、とチェコの友人がいち早く知らせてくれたのは昨年2011年11月30日のことです。そのわずか3ヶ月前にチェコでお会いしたときの、お元気な姿が目に焼きついていて、すぐには信じられませんでした。あの笑顔にもう会えないかと思うと、急に寂しさがこみ上げてきました。
2001年 初めてお会いした時の写真
ミレルさんに初めてお会いしたのは11年前のこと。いつかチェコの絵本を翻訳したい、という希望がかなって最初に世に出たチェコの絵本がミレルさんの「もぐらくんの絵本」シリーズでした。チェコ語で、“もぐら”という意味のKrtek(クルテク)は50年以上、親子3代にわたってチェコで愛されてきたキャラクターです。日本ではすでに1967年に『もぐらとずぼん』、1969年に『もぐらとじどうしゃ』の絵本が刊行されてロングセラーとなっていますが、その後33年間、Krtekの新作は日本語に翻訳されていませんでした。
 チェコの友人にKrtekを日本語に翻訳することを初めて伝えたとき、だれもが満面の笑みになりました。「すごいね、Krtekの日本語版!?」チェコ生まれのもぐらくんのアニメーションが広く世に知られ、絵本が世界の約20ヶ国語に翻訳されていることは、東京都ほどの人口の国、チェコ人の誇りといってもいいのです。
2002年 ロングインタビュー
 私は、ミレルさんに2002年にロングインタビューをしたことがきっかけとなり、プラハを訪れるたびにご連絡をするようになりました。あるときは、母の手作りの巻きずしをミレルさんのお宅へ持参して一緒に食べ、またあるときは出版社に寄せられた「もぐらくんの絵本」の感想を、チェコ語に訳してミレルさんに読んで差し上げました。「日本の子どもたちは、テレビをよく見るの?」「子どもも携帯電話を持っているの?」と日本での暮らしぶりを、興味深そうに聞かれることも。そして、夏には庭で花の名前をたくさん教わりました。
 ところが、ひとたびアトリエの描きかけの絵の前に座ると、ミレルさんは扉の向こうの世界へ行ってしまわれたような、何か近づきがたいものを感じました。息をこらして指先を見つめていると、そのふっくらとした手からは繊細な線が引かれ、次第にそれはいきいきとした植物や動物の形になっていくのでした。

             ***

2011年夏
エンデバーにフォイステルさんが、もぐらくんを乗せた時のマーク
 2011年の夏、ミレルさんの体調が良くなるのを待ってサナトリウムに会いに行くことになりました。強い日差しの中、プラハから地下鉄とバスを乗り継いで1時間ちょっと。森のような広い敷地の中の、一軒家風の個室にミレルさんを訪ねると、いつもの笑顔で迎えてくださいました。お茶を飲みながらおしゃべりを楽しんでいるときのことです。ミレルさんからこんな話が出ました。
「知っているかね。新しく発見した惑星を“ズデネック・ミレル星“と天文学者が命名したんだよ。今度はそこに遊びにいらっしゃい。みんなでいらっしゃい」
「ぜひ行きたいです!それじゃあ、今度はロケットじゃないと無理ですね」と私は応じて、一同は大笑い。
 ロケットの話を出したのは、その数ヶ月前アメリカ人のフォイステル宇宙飛行士が、エンデバー号にKrtekの特製ぬいぐるみを乗せて宇宙へつれて行ったことが、チェコでは大変話題になっていたのを知っていたからです。(フォイステル宇宙飛行士は、私がミレルさんを訪ねた数週間後にミレルさんを表敬訪問しました)
 ミレルさんは、50年ほど前に出した「もぐらくんとロケット」という絵本の中で、もぐらくんを宇宙へ行かせていたのです。エンデバーのニュースに、まるで絵本が現実になったみたいだ、とチェコでは大人も喜びました。
 2011年4月、小惑星(20364)に、zdenekmiler(ズデネック・ミレル)と命名したチェコの天文学者がいたのも本当の話です。絵本『もぐらくんとみどりのほし』が好きだったから、というのが理由だそうです。もぐらくんが見つけた、きれいなみどりの石を夜空に届けて、森の仲間が星として眺められるようにする、というストーリーが忘れられなかったのでしょうか。2011年は、こうした絵本「もぐらくん」やミレルさんをめぐる心温まるエピソードが届いた年でもありました。
 作家ズデネック・ミレルさんが絵本に込めた暖かい世界観、笑いやユーモアは決して忘れられることはなく、これからも世代や国境や天体さえも超えて、じんわり伝わっていくことでしょう。
 みなさんも、星のきれいな晩に夜空を見上げて、「ズデネック・ミレル星」を探してみてください。「ぼくの星へ遊びにいらっしゃい!」というミレルさんの笑顔が見られるかもしれませんよ。

過去のコラム



プロフィール なかま ほん グッズ コラム

Copyright(c)