おでんの屋台「雪窓」を舞台に、おかしいけれどなぜかせつない不思議な物語が幕を開ける。安房直子の傑作童話の絵本化。
1943年、東京に生まれる。日本女子大学国文科卒業。在学中より山室静氏に師事、「目白児童文学」「海賊」を中心に、かずかずの美しい物語を発表。『さんしょっ子』(日本児童文学者協会新人賞)『北風のわすれたハンカチ』(産経児童出版文化賞推薦)『風と木の歌』(小学館文学賞)『遠い野ばらの村』(野間児童文芸賞)『山の童話 風のローラースケート』(新美南吉児童文学賞)『花豆の煮えるまで—小夜の物語』(赤い鳥文学賞特別賞)など受賞多数。1993年、永眠。
★刊行時に寄せられたメッセージです
このお話の世界を描く時に、一番大変だったのは、ずばり「雪窓(屋台)」そのものです。この主役でもあり、物語の大切な舞台でもある「雪窓」を一体どのように描けばいいのか……僕は頭を抱えました。
頭を使って悩んでいても、一向にラチがあかないので、「実際に食べに行こう!!」ということに……。インターネットで調べた、いい感じのおでん屋に向かいました。(屋台のおでんを食べにいくのは、実はこれが初めてでした……)
大きな公園の前に、それは、ありました。その小さな屋台からは、温かな湯気が立ちのぼり、お鍋の中には、美味しそうなおでんが、クツクツ煮えていました。おでんを注文しながら、僕はゆっくりと、屋台の観察を始めました。使いこまれた、鍋やタネ箱……。味のあるランプやコンロ……。屋台の外に突き出した、食器棚やカウンター……。そして、やさしそうな屋台のおばあちゃん……。どこか懐かしくて、あったかくて、ほっこりと安心してしまう……。
そんな、居心地のよい空間の中で、あつあつのおでんを頬張ってると、なんともいえない幸せが、僕を満たしていきました。
「こっこれかあ~……」
僕はその時、この物語りにでてくる「雪窓」の持つ、不思議な魅力が少しだけ分かったような気がしました。あとは、僕がうまくそれを、読者に伝える事ができれば……。
本が出来上がった今は、ただそれを祈るばかりです。
どうか、伝わりますように……(山本孝)